
「ガラスの靴」が12時になっても、消えなかった理由。シンデレラへの”プレゼント” 原作者ペローの真意に近づきたいと思います。
つい先日、「ガラスの靴(the little Glass Slipper)」は、シンデレラに与えたのであって、魔法をかけたものではないから、12時を過ぎても「ガラスの靴」は消えなかったという謎解きエピソードが話題になりました。
ガラスの靴の制作者として、この謎を掘り下げてみます。
このエッセイは、ひょんなことから「ガラスの靴」制作にたずさわることになった私のそれからの13年にわたる思索と、制作者として ペローの「真意」に近づきたいとの想いからまとめたものです。
この写真は、ノーベル賞作家の川端康成が翻訳したシンデレラの本。この本でも、川端康成は、以下のように翻訳しております。
”と、一足のくつをくれました。”
”それは、なんともいいようのないほど、かわいらしい、ガラスの上靴でした。”
(収蔵本より)
ディズニー映画では、魔法により「ガラスの靴」が登場するアレンジが加わります。・・320年前、原作者ペローは、「ガラスの靴」を「魔法」から切り離し、どうして「魔法では、消えないもの」にしたのでしょう?
「ガラスの靴」のことを、魔法によらない「現実にあるもの」として語ることで、ペローは読者に、”いつの日か わたしも「ガラスの靴」を手にできる 私もシンデレラになる" と 「夢を描く力」「夢に向って、少々の困難に立ち向かっていく姿勢」をもって欲しかった?
そのとおりにこの想いを継いだ、後年ペローの「シンデレラ」を出版し、たくさんの読者に楽しんでほしい出版人は、ずいぶんと「ガラスの靴」に気を遣います。
この出版人Joseph Cundallの本(1845年出版)も、「仙女がポケットから取り出した」と、前段の魔法とは区別しております。
でもよーく、赤いアンダーライン箇所を見てみてください。
「elastic glass slippers」 伸縮性のあるガラスの靴!! ひとこと「Elastic」をこの出版人は、勝手に付け足してしまいました。
「現実にあるもの」ならば、「ガラスの靴」に「伸縮性」がなければ、踊れない。
小さな子の”とまどい”を避けるためにも「ひと言」を付加したのでしょう。
「ガラスの靴」に気を遣っています。(小さな子は、家の窓ガラスでは作れなさそう・・ 特別なガラスで作ったらしい・・と、発想は、未来へとどんどん伸びていきます・・)
出版人Joseph Cundallは、「家族の宝物」を作るのだという意志をもって「本」を世に出しました。(今ならさしずめハリーポッターをつくった、J.K.ローリングに通じるのかも)
ペローは「ガラスの靴」を「消えないもの」として、どうして「魔法」から区別したのでしょう。
謎にせまってみます。それには、まずペローを知らなくては・・
原作者 シャルル・ペローは、こんな人
当時の光景を想像してみていただけますでしょうか。
ペローは、ルイ14世に仕え、王政の中枢部にいた人です。
1669年、ペロー(41歳、 未来のシンデレラ出版まであと28年)は、ルイ14世に、ベルサイユに39の噴水をつくることを進言します。
噴水が完成すると、ペローは、この庭園を市民が楽しめるように「ベルサイユの迷宮」というガイドブックも作ります。
ルイ14世の人気・威光を高めるため、噴水庭園には市民も入って楽しむことができました。ガイドブック題名に、庭園地図など無粋に名付けるのではなく、迷宮「ラビリンス」と名付けるところも、ペローの面白い一面を表しています。
噴水のテーマは紀元前6世紀の「イソップ物語」
ベルサイユ宮殿の有名な「鏡の回廊」は、噴水庭園の後、1684年に完成します。357枚の大きな鏡でおおわれた大空間(長さ73メートル x 幅10.5メートルx高さ12.3メートル)。ガラスの魅力が圧倒します。(設計者は別な人)
大きな「ガラス」・「鏡」は、たいへん貴重なもの。フランスには、その製造技術がありました。フランスは「ガラス製造」を誇るべき一大輸出産業にしたかったようです。
この肖像画は、シャルル・ペロー44歳のとき。
「噴水庭園」をルイ14世に進言した3年後、ペローが結婚した年に描かれた肖像画。噴水庭園の着工の年でもあります。
法律を学んだ後、建築家として活躍したペローの人生。年の離れた兄クロード・ペローとともに、ベルサイユ宮殿の建築にかかわりました。「建築図面」も見えます。
ペローの「実務家」としての一面をうかがい知ることができます。
曲線の部分は、王室礼拝堂?
推理 NO.1 実務家ペロー
出版にあたり、ペローは、シュールが幼かった頃にまとめたシンデレラ物語に、重要なアイデアをおもいつきます。「ガラスの靴」を、「魔法の1つ」にしてしまうよりも、「与えた」とすることのメリットに気づくのです。
「与えた」とすることで、「ガラスの靴」は、フランスに現実に存在するかもしれないものとなり、フランス製ガラスに、”憧れ”のイメージを醸成することができるのではと狙ったのです。(ガラス会社を助け、ルイ14世の治政を支えようと)
註: このころ「本」は、手のひらに隠れるサイズの「チャップ・ブック」という形式があり、お屋敷やお城に出入りする行商人により、貴婦人に「おみやげ」として渡されるのでした。シンデレラも「チャップ・ブック」として、お屋敷やお城の貴婦人に渡された、人気の本。高価なフランス製ガラスの購入をできる上流階級に「本」をつかって宣伝ができたのです。
210年前のチャップブック「Cinderella, or the little glass slipper」復刻本(70年前に制作)を収蔵しておりますので、いつか紹介させていただきます。なお、日本では、横浜の鶴見大学の図書館に、シンデレラの貴重な「チャップブック」の現物が複数、保管されています。調湿された鍵のかかった収蔵庫の奥にしまわれた現物を拝見しましたが、たいへん貴重なものでした。
ガラスの靴・・ もしも「魔法」が解けてしまう「ドレス」と同列にすれば、ただの消えてしまう”ガラス”となり、「フランス製ガラス」に魅惑のイメージは、醸成されません。とうとう平和への道がしかれたのですから、実務家ペローにいよいよ産業振興へと気持ちがわいたのです、きっと、実務家として。
この推理の「裏付け」は不可能です。
しかし、たった1つ、この「推理」(実務家としてのペローが「フランス製ガラス」の新しい販路の開拓、輸出の応援という、裏の目的をもった)を、「そうかもしれない!」と思わせるものがあります。
ひとつだけ、そうかもしれないと思える、「拠り所」を見つけました。
「題名」です。「シンデレラ、または小さなガラスの靴」
双璧をなす2つの物語 ペロー版と、グリム版、比べてみます。
シャルル・ペローは、「シンデレラ、または小さなガラスの靴」
フランス語の題名 Cendrillon, ou La petite Pantoufle de Verre
翻訳された英語の題名 Cinderella, or the little glass slipper
翻訳された日本語の題名 シンデレラ、または小さなガラスの靴
写真をクリックすると、青空文庫で、読めます。
推理: 当時、ペローの「シンデレラ、または小さなガラスの靴」が、貴婦人方に話題になればなるほど、高価なフランス製「ガラス」への憧憬は、つのるばかりだったことでしょう。
130年ほど後年となる、グリム兄弟の題名は「灰かぶり姫」。「題名」に「はきもの」はありません。またグリムでは、物語のなかでも「ガラスの靴」は登場しません。
ペロー「シンデレラ」発表の80年後に、イギリスからアメリカが独立。それからさらに50年後に「グリム童話」という、そんな時間軸。「写真」技術の登場はもうすぐそこという、時代。
シャルルペローは、ルイ14世の秘書官でもありました。フランスが平和への道をあゆむタイミングでの出版です。おおいに産業振興に期待するところがあったかもしれません。
もう1つの推理 NO.2 父ペロー
「ガラスの靴」は、魔法ではないから、永遠に解けない、という「大切な願い」
乳母(妖女・魔法使い)には、「守護者」の意味があります。守護者である乳母(妖女)から与えらた「ガラスの靴」に、「永遠に消えない象徴」としての大切な願いを込め、平和への思いを重ね合わせて、このタイミングで「出版」したのかも知れません。ペローは命への想い、大切に「生きる」ことの想いが人一倍強かったと思います。
金のドレスが解けても、消えなかった「ガラスの靴」のもつ、透明感のある魅力的なイメージ、同時に、ガラスという壊れやすい「はかない」イメージ。強くつよく「ガラスの靴」に憧れるシンデレラ物語に仕立てあげたうえで、「出版」することで、17世紀末、ようやく手に入る「平和のあけぼの」のたいへん貴重な様を、思わず知らず「ガラスの靴」イメージと重ねあわせ、「貴重なものが来た(けれども、くだけやすいもの、それでも勇気をもって努力して、舞踏会で踊れたら、夢のような幸せが来る)」と暗示する仕掛けをつくったのかしれません。(ペローは、新しい時代をつくることに興味のあった人です。記録にのこる文学の大変な古今論争もしております。)
こんなふうに考えていたら、「シンデレラ」がもっと愛おしい物語におもえます。
あなたがもし、ペローだったら、どんな「ガラス」の話をつくったでしょう。
こんな推理、いかがでしょうか
関連記事: 一度向き合っておきたい「ガラスの靴」誤訳説

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