「シンデレラ姫物語 英和対訳」
訳注者 廣岩敬太郎
出版社 白鳥社
出版日 昭和22年9月25日
定価 30円
紙に漉き込まれた、たくさんの細切れの藁(わら)が、ページをなぞる指の腹にごつごつあたる、ひどく紙の裏面に凹凸のあるわら半紙を使った、小さくて薄い、粗末な本。
この本とは別な本、東郷青児が挿絵を担当した本も同じく昭和22年発行の「わら半紙」製だけれども、東郷本は、藁とは思われないほどに残る藁片は小さく、紙の裏面も表面と同等の滑らかさがある良質な紙を使う本。(東郷はすでに著名人でした)
その美しい夢の資料となる場合もあることをも、私は、ひそかに、念じないではおられません。
1947年 春 廣岩敬太郎
終戦後まもなく、東京に暮らす一介の英語教師が、熱い夢をもってこの「出版」という仕事にとりくみはじめ、一生懸命に、汗をかいて、推敲を重ねて、とうとう書き上げ、日本の未来を託す若い人たちに英語を好きになっていただきたいと願い、良質の紙が不足するなか、“英語教材”としての「シンデレラ姫物語」出版を、懸命に実現されたものと、手にとりページを繰るとき、伝わってきます。
戦後すぐの時期、高円寺のアパートで不自由な自炊生活に堪えながら、三河の山間に疎開したままの、もっとみじめな生活をおくっているだろうと想う3人のいとし子への直接かなわぬ、語りかけをするつもりで、情熱をかけて、全身全霊をかけて、作った本。 もっともこころが震えた本です。